薬剤師 コミュニケーション能力

薬剤師のコミュニケーション能力は、明るさや話のうまさではなく、練習で身につく「確認と伝達の技術」です。
「聴く・確かめる・伝える・つなぐ」の4つの型を覚えれば、話すのが苦手な人でも服薬指導(薬の説明と体調確認)や医師への問い合わせで迷う場面を減らせます。

「患者さんとの会話が続かない」
「医師に電話する前に何度も練習してしまう」
と悩むのは、あなただけではありません。

薬剤師2,400人への調査では約9割が医師への問い合わせにストレスを感じている一方、医師を対象にした別の調査でストレスを感じた経験があるのは約3割でした。

この記事では、患者と医師が本当に求めていることをデータで示したうえで、4つの型の練習方法と、明日からそのまま使える場面別の例文を紹介します。

「自分は薬剤師に向いていないのでは…」と感じている方こそ、判断する前に読んでみてください。

薬剤師にコミュニケーション能力が求められる理由

薬剤師にコミュニケーション能力が求められている理由はなんでしょうか?
それはこちらの動画を観ていただくとわかりやすいと思います。

【
薬学部卒業後に感じた薬剤師へのギャップ】



ですから新人薬剤師にはこんな練習もさせている薬局も多いのです。

【コミュニケーションの新人研修】



「今は薬剤師にもコミュニケーション能力が求められている時代なんですよ」
と聞いて
「私は人前に出ると超アガリ症でうまく会話ができません」
と悩む方もいるのですが、そこまで難しい高度なコミュニケーション能力を求められているのではありません。
しいていえば患者さんと気さくに世間話ができる程度で十分なんです。

それではわかりにくいので少し
「患者さんと薬剤師のコミュニケーションのコツ」
も考えてみましょう。

薬剤師のコミュニケーション能力は性格ではなく練習で身につく技術

薬剤師 コミュニケーション能力

薬剤師に求められるコミュニケーション能力の中心は、患者や医師と正確に情報をやりとりする力です。
ここでは、話のうまさより
・確認と伝達が重視される理由
・土台となる4つの型の全体像、
・苦手意識が生まれる本当の原因

を説明します。

求められるのは話のうまさより確認と伝達の正確さ

薬剤師に求められるコミュニケーション能力は、場を盛り上げる会話力ではありません。
患者の状態を正確に聞き取り、必要な情報を誤解なく伝える力が中心です。
文部科学省の「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」(薬学部で教える内容の指針)も、コミュニケーション能力を「情報の共有、交換を通してその意思決定を支援する」力と定めています。

意思決定の支援とは、患者が自分の治療に納得して選べるよう手助けすることです。

たとえば「血圧の薬を飲むと体がだるい」と話す患者に必要なのは、楽しい雑談ではなく、だるさが出る時間帯や程度の確認と、医師に相談すべきかの判断です。
この確認と伝達が正確であれば、口数の少ない薬剤師でも患者の安全に十分貢献できます。

出典:文部科学省「薬学教育モデル・コア・カリキュラム 令和4年度改訂版」

土台は「聴く・確かめる・伝える・つなぐ」の4つの型

薬剤師のコミュニケーションは、4つの型に分けると練習しやすくなります。「聴く・確かめる・伝える・つなぐ」の4つで、どれも性格ではなく手順の問題です。服薬指導(薬の飲み方や注意点を患者に説明し、体調を確認する業務)の流れに当てはめると、それぞれの役割は次のとおりです。

聴く 患者の体調や生活の情報を集める
確かめる 聞いた内容を要約し、認識のずれをなくす
伝える 薬の使い方や注意点を、相手に合わせて説明する
つなぐ 得た情報を薬歴(患者ごとの服薬記録)や医師に引き継ぐ



4つのうち1つでも抜けると、情報は途中で止まります。
たとえば丁寧に聴けても、薬歴に残さなければ、次に対応する薬剤師には伝わりません。
自分がどの型でつまずいているかを知ることが、上達への近道です。

苦手の原因は性格より型を知らないこと

コミュニケーションが苦手だと感じるとき、原因として見直すべきなのは性格ではなく、何を聞いて何を伝えるかの型です。
型がないと会話の目的が定まらず、患者に「特に変わりないです」と言われた時点で話が止まります。
業界紙の薬事日報のコラムでも、薬剤師のコミュニケーション能力とは説明する技術なのか、聞き出す技術なのかという問いが投げかけられています。

業界の中でも定義があいまいなまま「コミュニケーション能力を上げよう」と求められると、何を直せばよいか分からず、自分の性格を責める方向に考えが向かいやすいのです。
実際には、聞く項目と順番を決めておくだけで、会話は途切れにくくなります。
性格を変える必要はなく、型を一つずつ覚えれば十分です。

薬剤師にコミュニケーション能力が必要なのは患者の安全を守るため

薬剤師 コミュニケーション 薬歴

薬剤師のコミュニケーション能力は、接客の印象をよくするためだけでなく、薬の安全を守るために必要です。
副作用や飲み間違いの早期発見、
法律で定められた服薬フォローアップ
(必要に応じて、薬を渡した後の服用状況を確認すること)
医師や多職種(看護師や介護職など薬剤師以外の専門職)との連携、
職場ごとに異なる場面
の4つの観点から理由を説明します。

副作用や飲み間違いに早く気づける

患者との会話は、副作用や飲み間違いを早く見つけるための重要な情報源です。
処方箋には、患者が薬をどう飲んでいるか、体調がどう変わったかは書かれていません。
こうした情報は、患者本人に聞かなければ分からないのです。

たとえば「最近ふらつく」という一言から、降圧薬(血圧を下げる薬)の効きすぎや、睡眠薬の持ち越し(翌朝まで眠気が残ること)に気づける場合があります。
飲み忘れが多い患者については、一包化(複数の薬を1回分ずつ袋にまとめること)を医師に提案すれば、服薬アドヒアランス(患者が治療に納得し、指示どおり薬を使い続けること)を高められます。
会話で拾った小さな変化が、重い副作用や残薬(飲み残した薬)を防ぐきっかけになるのです。

服薬フォローアップが義務になった

2020年9月から、薬剤師には、調剤した薬の適正な使用のために必要と認める場合、薬を渡した後も患者の服用状況を継続的に把握し、情報提供や指導を行うことが法律で義務づけられました。

この服薬フォローアップは、2019年の薬機法(医薬品医療機器等法)改正とあわせて見直された薬剤師法第25条の2第2項に定められています。
すべての患者に一律で電話をかける決まりではなく、必要かどうかを薬剤師自身が判断し、渡した後の確認まで責任を持つ仕組みです。

フォローアップは電話で行うことが多く、相手の表情が見えないぶん、聞き取りの技術が問われます。
課題は「どこまで対応すべきか判断が難しい」で、話し方より判断基準の不足が悩みの中心だと読み取れます。

医師や多職種との連携に欠かせない

薬剤師がやりとりする相手は、患者だけではありません。
医師や看護師、ケアマネジャー(介護サービスの計画を立てる専門職)など、多職種が協力して患者を支えるチーム医療の場面が増えています。

医師への疑義照会(処方内容に疑問があるとき、処方した医師に確認すること)は、その代表例です。



疑義照会は薬剤師法第24条で定められた義務で、疑わしい点を確かめるまで調剤してはいけません。
在宅医療(患者の自宅や施設を訪問して行う医療)では、訪問先で見つけた残薬や飲み込みにくさを、医師やケアマネジャーに伝える役割も担います。
病院では感染対策や栄養管理のチームに加わり、薬の専門家として意見を述べる機会もあります。
出典:厚生労働省 法令等データベース「薬剤師法」
出典:日本病院薬剤師会「『医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について』日本病院薬剤師会による解釈と実践事例」

病院・薬局・ドラッグストアで求められる場面は違う

同じ薬剤師でも、職場によってコミュニケーション能力を使う場面は大きく変わります。
自分の職場で何が求められているかを知れば、練習の優先順位を決められます。

主な違いは次のとおりです。

  • 調剤薬局
    服薬指導、
    服薬フォローの電話、
    疑義照会、
    トレーシングレポート
    (医師へ文書で送る服薬情報)
  • 病院
    病棟での患者面談、
    カンファレンス(治療方針を話し合う会議)、
    処方提案(医師に薬の変更などを提案すること)
  • ドラッグストア
    OTC医薬品(処方箋なしで買える市販薬)の相談と受診が必要かの見極め
  • 在宅医療
    患者・家族・ケアマネジャーとの情報共有



調剤薬局では、短い投薬時間で情報を集める場面と医師に電話をかける場面が特に多くなります。
ドラッグストアでは、症状を聞いて市販薬で対応してよいかを判断する聞き取りが中心です。

苦手の中身は職場によって違うため、自分の場面に合わせて型を練習してください。

患者と医師が薬剤師に求めるコミュニケーション能力は「的確さ」

患者と医師が薬剤師に求めているのは、話し上手であることではありません。
それは、必要な情報を的確にやりとりすることです。

患者の不満の中身、
医師が疑義照会で気にしている点、
薬剤師と医師の意識の差を示すデータを紹介します。

患者が求めるのは知りたいことへの的確な答え

患者が薬剤師に求めているのは、楽しい会話ではなく、自分が知りたいことへの的確な答えです。
薬剤師に関する相談として、患者への配慮より医師への遠慮を優先する対応や上から目線の対応、的外れな説明が挙がっています。
決まった内容を一方的に話すのではなく、患者の知りたいことに応える情報提供を求められています。

「雑談が苦手だから患者に好かれない」と悩む必要はありません。
問題にされているのは、説明が患者の疑問からずれていることです。
説明を始める前に「今日、気になっていることはありますか?」と一言聞くだけで、このずれは減らせます。

医師が気にするのは話し方より必要性とタイミング

医師が疑義照会で気にしているのは、薬剤師の話し方よりも、問い合わせの必要性とタイミングです。
医師が疑義照会にストレスを感じる理由の1位は「不要な確認事項が多い」です。
言い回しの丁寧さより、本当に確認が必要な内容かどうかが問われているのです。

問い合わせのタイミングもストレスの原因として挙げられています。
調剤を止めるほどではない情報なら、トレーシングレポートで文書にして伝える方法が選択肢です。

電話をかける前に処方箋と前回の処方、添付文書(薬の公式な説明書)の該当箇所をそろえておけば、医師を待たせる時間を短くできます。

疑義照会に悩む薬剤師は約9割、ストレスを感じた医師は約3割

疑義照会をめぐっては、薬剤師と医師の間で負担感に大きな差があります。
疑義照会にストレスを感じている薬剤師が約9割にのぼったという調査もあります。

一方、医師への調査では、疑義照会にストレスを感じた経験があるのは31.1%で、約7割の医師は負担に感じていません。

薬剤師側のストレスの原因は「患者の待ち時間が長くなること」(64.7%)が最も多く、「医師とのコミュニケーションが不安」も5割弱でした。

この差から、電話の前に感じる怖さは、医師の実際の受け止め方と必ずしも一致していないことが読み取れます。
「医師はみな迷惑がっている」という思い込みを見直す材料にしてください。

薬剤師のコミュニケーション能力を高める方法は「4つの型」の練習

薬剤師のコミュニケーション能力を高める方法

薬剤師のコミュニケーション能力を高める近道は、「聴く・確かめる・伝える・つなぐ」の4つの型の練習です。
各型の具体的なやり方と言い回しの例、自分の弱い型を見つけるチェック項目を紹介します。

【聴く】傾聴は答えやすい質問から始める

傾聴(相手の話を否定せず、関心を持って聴くこと)は、答えやすい質問から始めると無理なく実践できます。
話すのが得意でない患者には、「はい・いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンが効果的です。
話してくれない患者には質問を一つずつ重ねて情報を集める方法も活用してください。

たとえば「お変わりないですか?」と聞く代わりに、
「前回からふらつくことはありましたか?」
「夜中にトイレで起きる回数は増えましたか?」
と具体的に聞きます。
答えが返ってきたら、
「いつ頃からですか?」
「どんなときですか?」
とオープンクエスチョン(自由に答えられる質問)で広げると、会話が自然に続きます。

「具体的に聞く→広げる」という順番を決めておくことが、話し上手でなくても情報を集めるコツです。

【確かめる】要約して相手の言葉を確認する

聴いた内容を短く要約して返すことが、聞き違いを防ぐ基本です。
患者の言葉を言い換えて確認すると、薬剤師の思い込みを防げるうえ、患者自身も状況を整理できます。
患者から「そうなんですよ」と返ってくるコミュニケーションを目指すようにしてください。

患者が「朝は忙しくて、薬を飲むのを忘れがちで」と話したら、「朝の分を飲み忘れることが多いのですね」と返すのが要約の例です。
ここで「そうなんです、昼はちゃんと飲めています」と返ってくれば、飲み忘れは朝だけだと確認できます。
要約は長くする必要がなく、相手の言葉を一文にまとめるだけで十分です。

【伝える】専門用語を避けて結論から話す

薬の説明は、専門用語を避けて結論から先に伝えると理解されやすくなります。
患者が家に帰ってから覚えておくべき点を、1?2点に絞るのがコツです。
説明の最初に「今日お伝えしたいのは2つです」と数を示すと、患者は聞く準備ができます。

言い換えの例は次のとおりです。

  • 頓服→ つらいときだけ飲む薬
  • 食間 → 食事と食事の間(食後2時間ほど)
  • 併用 → 一緒に使うこと
  • 副作用 → 薬で起こる、体の困った変化



説明の最後に「ご家族に伝えるなら、どう説明しますか」と尋ねると、理解できているかを患者自身の言葉で確かめられます。
専門用語を一つ言い換えるだけでも、患者が質問しやすい雰囲気が生まれます。

聴いて確かめた情報は、薬歴と医師に渡して初めて患者の役に立ちます。
会話がうまくいっても、記録に残さなければ次回の担当者には伝わりません。
「つなぐ」は話す力より書く力が問われるため、口下手な薬剤師が強みを出しやすい型です。

薬歴は、SOAP形式(患者の訴え・客観的な情報・薬剤師の評価・今後の計画に分けて書く方法)で整理すると、次の担当者が状況をすぐ把握できます。
医師に伝える情報は、緊急性で手段を分けるのが基本です。
調剤前に確認が必要なら疑義照会、次の受診までに知っておいてほしい内容ならトレーシングレポートを使います。

自分がつまずいている型をチェックする

4つの型のうち、自分がどこでつまずいているかが分かれば、練習する内容が決まります。
次の項目で、当てはまるものを確認してください。
複数当てはまる場合は、最も困っている場面に関係する型から取り組みます。

  • 「変わりないです」と言われると会話が止まる → 聴く
  • 後から「そういう意味ではなかった」と言われる → 確かめる
  • 説明しても同じ質問を繰り返される → 伝える
  • 聞いた内容を薬歴に書けない、医師に伝えるべきか迷う → つなぐ



チェックの目的は、悩みを「コミュニケーション全般」から「この型」に絞り込むことです。
対象が絞れれば、1週間ごとに1つの型を意識するといった具体的な練習計画を立てられます。
上司との面談でも「聴く型を練習しています」と伝えれば、取り組みの中身が具体的に伝わります。

薬剤師のコミュニケーション能力は場面別の型で現場に活かせる

薬剤師のコミュニケーション能力 場面別
4つの型は、場面ごとに使い方を決めておくと現場で迷わず使えます。
ここで取り上げるのは、
・服薬指導
・服薬フォローの電話
・疑義照会
・トレーシングレポート
・クレーム対応
の5つの場面における最初の一言と確認のポイントです。

【服薬指導】「変わりない」で会話を終わらせない

服薬指導で「特に変わりないです」と言われたら、具体的な質問を1つ足すと会話が続きます。
「変わりない」は患者なりの要約で、細かな変化が省かれている場合があるためです。

薬ごとに確認したい症状を1つ決めておけば、迷わず質問を足せます。

薬の種類ごとの質問例は次のとおりです。

  • 降圧薬
    「立ち上がったときに、ふらっとすることはありませんか?」
  • 睡眠薬
    「朝、眠気が残っていることはありませんか?」
  • 糖尿病の薬
    「冷や汗や手の震えが出たことはありますか?」
    (低血糖=血糖値が下がりすぎた状態の確認)
  • 抗菌薬
    「お腹がゆるくなっていませんか?」



患者が「そういえば」と話し始めたら、聴く・確かめるの型に戻って詳しく聞いてください。
足す質問は1つで十分で、すべてを毎回聞く必要はありません。

【服薬フォローの電話】聞く項目を先に決める

服薬フォローの電話は、聞く項目を3つ程度に絞ってからかけると短時間で終わります。
最も多かった悩みは「どこまで対応すべきか判断が難しい」です。
確認する項目と、どんな答えなら医師に連絡するかを電話の前に決めておけば、この迷いは減らせます。

たとえば新しく血圧の薬が始まった患者なら、
「〇〇薬局の△△です。
 先日お渡しした血圧のお薬について、2?3分お話しできますか」
と時間の目安を伝えてから始めます。
確認するのは、
薬を飲めているか?
ふらつきはないか?
家で測った血圧の値
の3点です。

日本薬剤師会も「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」を公開しているので、聞く項目を決める際の参考にしてください。
出典:日本薬剤師会「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」(

【疑義照会】前回処方との違いから切り出す

疑義照会は、前回処方との違いや確認したい点を最初の一文で伝えると、短いやりとりで済みます。
「間違っていませんか?」と指摘する形ではなく、「確認させてください」と事実から入るのが基本です。
医師が知りたいのは、どの患者の、どの薬の、何が気になるのかという3点です。

電話の切り出しは、次のような形にすると伝わりやすくなります。

「〇〇薬局の薬剤師△△です。
 本日処方の□□様の件で、1点確認させてください。
 前回まで1日2回だった△△錠が、今回は1日3回になっています。
 増量のご指示でよろしいですか?」



腎機能(腎臓が老廃物や薬を体の外に出す働き)が低下している患者の用量確認なら、検査値などの根拠も一言添えると、医師は判断しやすくなります。
要点をメモに書いてから電話すれば、緊張しても話す順番を見失いません。

【トレーシングレポート】急がない情報は文書で伝える

トレーシングレポート(服薬情報提供書)は、急ぎではないものの医師に知っておいてほしい情報を、文書で伝える仕組みです。
電話が苦手な薬剤師にとっては、落ち着いて内容を整理できる正式な伝達手段になります。

国立病院機構東京医療センターのように、受け付け方法を公開している医療機関もあります。

対象になるのは、たとえば次のような情報です。

  • 残薬が多く、飲み忘れが続いている
  • 市販薬やサプリメントとの飲み合わせが気になる
  • 錠剤が飲み込みにくく、自己判断で砕いて飲んでいる
  • 軽い副作用が疑われるが、受診予定が近い



書くときは「事実(患者の発言や残薬の数)」「薬剤師の評価」「提案」の3つに分けると、医師が短時間で読めます。
簡潔さが優先なので、長い文章を書く必要はありません。
出典:国立病院機構東京医療センター「トレーシングレポートについて」

【クレーム対応】事実と気持ちを分けて受け止める

クレームを受けたときは、相手の気持ちと事実を分けて受け止めると、冷静に対応できます。
「待ち時間が長い」という訴えには、待たされた不快さという気持ちと、実際に何分待ったかという事実が含まれています。
気持ちには共感の言葉で、事実には説明や改善策で応えるのが基本です。

具体的には、「お待たせしてしまい、申し訳ありません」と気持ちに応えたうえで、「本日は新しいお薬の確認に時間がかかりました」と理由を短く伝えます。
言い訳を重ねたり、すぐに反論したりすると、相手は話を聞いてもらえなかったと感じます。
一人で対応しきれないときは、管理薬剤師(薬局の管理責任を負う薬剤師)に早めに引き継いでください。

「コミュ障」の薬剤師でもコミュニケーション能力は準備で補える

コミュ障 薬剤師

自分を「コミュ障」だと感じている薬剤師でも、準備と練習でコミュニケーション能力は補えます。

取り上げるのは、
・記録の正確さを強みにする考え方
・「低い」と言われたときの対処
・台本づくり
・1日1つの練習
・先輩の観察方法

です。

記録と確認の正確さを強みにする

話すのが苦手な薬剤師は、記録と確認の正確さを強みにすると、自分らしい形で役割を果たせます。

4つの型のうち「確かめる」と「つなぐ」は、口数より丁寧さが結果を左右する型です。
聞き取った内容を漏れなく薬歴に残し、必要な情報を医師へ確実に届ける力は、チーム全体の安全を支えます。

雑談が得意な同僚と同じやり方を目指す必要はありません。
たとえば帰り際に「次回までに家で血圧を測っておいてください」と具体的なお願いをしておくと、次回の会話の糸口になります。
前回の話題を薬歴から拾い、「前回おっしゃっていた膝の痛みはいかがですか」と聞けば、患者は覚えてもらえていると感じ、信頼関係が深まります。

「コミュニケーション能力が低い」と言われたら場面を特定する

上司から「コミュニケーション能力が低い」と言われたら、どの場面のことかを具体的に聞くのが改善の第一歩です。

「コミュニケーション能力」という言葉は範囲が広く、そのままでは何を直せばよいか分かりません。
場面が特定できれば、4つの型のどこを練習すればよいかが決まります。



聞き方の例は「投薬のどの場面で、どんな点が気になりましたか」です。
「説明が早口だった」なら伝える型、
「患者の話を遮っていた」なら聴く型、
「医師への報告が遅れた」ならつなぐ型
の課題です。

指摘を具体的な行動に置き換えると、性格を否定されたような気持ちからも離れられます。

よくある質問に答える台本を用意する

患者からよく受ける質問には、あらかじめ台本を用意しておくと落ち着いて答えられます。
その場で言葉を考える負担が減るぶん、表情や声のトーンといった非言語コミュニケーション(言葉以外の情報のやりとり)に目を向ける余裕が生まれます。
台本は暗記用ではなく、言うべき要点を漏らさないためのメモです。

台本を作っておくと便利な質問の例です。

「ジェネリック医薬品(先発品と同じ有効成分を含む後発医薬品)に変えても大丈夫ですか」
「お酒を飲んでも平気ですか」
「飲み忘れたときはどうすればいいですか」
「なぜこんなに待つのですか」



台本はスマートフォンや手帳に書きため、実際に使った後で言い回しを直していくと、自分の言葉になじんでいきます。
よくある質問への台本づくりを苦手克服の方法としてうまく活用してください。

1日1つだけ型を試す

練習は、1日に1つの型だけを意識すると続けやすくなります。
すべてを同時に直そうとすると、投薬中に考えることが増え、かえって緊張が高まります。

月曜は「聴く」、
火曜は「確かめる」
というように、日ごとにテーマを決める方法が手軽です。

その日の終わりに、うまくいった場面を1つだけメモしてください。
「ふらつきの有無を聞いたら、最近の転倒について話してくれた」といった小さな成功の記録が、翌日の自信の土台になります。
1か月続ければ20件ほどの成功例がたまり、自分の成長を目で見て確かめられます。

先輩の服薬指導を型で観察する

先輩の服薬指導は、4つの型に分けて観察すると、まねできる部分が見つかります。
「話がうまい」と全体を眺めるだけでは、何をまねすればよいか分かりません。
聴く・確かめる・伝える・つなぐのどの場面で、どんな言葉を使っているかに注目してください。

たとえば、
先輩が最初にどんな質問をしているか?
患者の話をどう要約しているか?
を書き留めます。
気になった言い回しは、休憩時間に「あの質問はどういう意図ですか」と聞くと、背景にある考え方まで学べます。
観察した言葉をそのまま自分の台本に加えられるのも、この方法の利点です。

失敗の原因は薬剤師のコミュニケーション能力だけではない

薬剤師 クレーム処理

患者や医師とのやりとりがうまくいかなかったとき、原因が薬剤師個人のコミュニケーション能力だけにあるとは限りません。
薬局の仕組みで解決すべき問題、
カスハラ(客による暴言や理不尽な要求)への向き合い方、
医師に強く言われた後の振り返り方

を解説します。

薬局の仕組みで解決すべきこともある

やりとりの失敗には、個人の力ではなく薬局の仕組みで解決すべきものも含まれます。
薬剤師が疑義照会でストレスを感じる最大の原因は「患者の待ち時間が長くなること」でした。
待ち時間は、処方箋の枚数や人員配置といった薬局の体制に左右される問題です。

たとえば、
疑義照会中の患者への声かけを事務スタッフと分担する、
よく使う問い合わせの文例を薬局内で共有する
といった工夫で、一人にかかる負担は軽くなります。
患者と話す時間が取れない原因が人手不足にあるなら、それは管理薬剤師や本部に相談すべき課題です。

自分を責める前に、個人の課題と職場の課題を分けて考えてください。

カスハラは一人で背負う問題ではない

薬局薬剤師の69.1%がカスハラを受けた経験があると答えています。
目撃を含めると76.3%にのぼり、多くの薬剤師が直面している問題だと分かります。
ですが、カスハラ(カスタマーハラスメント)は、薬剤師個人のコミュニケーション能力で解決すべき問題ではありません。

カスハラを受けたときの心境で最も多かったのは「医療従事者として反論できないと考え、我慢した」(47%)です。
暴言や長時間の拘束を受けたら、一人で抱えず、管理薬剤師や同僚に対応を代わってもらってください。
日時や発言の内容を記録しておけば、薬局として対策を取る際の根拠になります。

医師に強く言われた後は内容とタイミングを振り返る

疑義照会で医師に強く言われた後は、自分の話し方を責めるより、問い合わせの内容とタイミングを振り返ると次に活かせます。
不満の中心は確認の必要性とタイミングです。
医師の不満がこの2点に向いている以上、強い口調の原因も、最初にこの2点から探るのが合理的です。

振り返りでは、次の3点を確認します。

  • その確認は、処方箋や薬歴、添付文書で解決できなかったか?
  • 電話をかけたのは、診察が混み合う時間帯ではなかったか?
  • 最初の一文で、患者名・薬剤名・確認点を伝えられたか?



3点とも問題がなければ、その照会は薬剤師の義務を果たした正当な行動です。
一度の強い反応で、次の照会をためらう必要はありません。

薬剤師として働きたくない」と感じたら判断軸を持って選べばいい

コミュニケーションの悩みから「もう、薬剤師として働きたくない」と感じたときは、勢いで決めず、判断軸を持って選ぶことが大切です。
練習で解決する苦手かどうかの見極め方、環境を変えたほうがいいサイン、人と関わらない仕事の実態、やめてよかった人とそうでない人の違いを整理します。

まずは練習で解決する苦手かを見極める

「薬剤師として働きたくない」と感じたら、その理由が練習で解決する苦手かどうかを最初に見極めてください。「疑義照会の電話が怖い」「患者との会話が続かない」といった悩みは、この記事で紹介した型の練習で改善を図れる種類の悩みです。2?3か月ほど型を意識して働き、変化があるかを確かめると判断の材料になります。

判断の目安になるのは、次の3つの問いです。

  • 悩んでいる場面が特定の業務に限られているか?
  • 苦手な型を特定できているか?
  • 相談できる先輩や上司がいるか?



3つとも「はい」なら、今の職場で練習を続ける価値があります。
「いいえ」が多い場合は、後述するサインも確認してください。

環境を変えたほうがいいサイン

練習で解決しない問題が続いている場合は、職場や働き方を変えることも正当な選択です。
個人の努力では変えられない環境の問題は、型を練習しても解消しないためです。

次のようなサインが続くときは、環境の見直しを検討してください。

– 処方箋の枚数に対して人手が足りず、患者と話す時間がそもそも取れない
– カスハラを相談しても、薬局として対応してもらえない
– 教育体制がなく、質問できる先輩がいない
– 眠れない、出勤前に体調を崩すなど、心身の不調が続いている

心身の不調が出ている場合は、職場を変えるかどうかを考える前に、医療機関や産業医(企業で働く人の健康管理を担う医師)に相談してください。環境を変える場合も、別の薬局、病院、企業など選択肢は複数あります。自分の苦手な型と得意な型を把握しておくと、次の職場選びで同じ悩みを繰り返しにくくなります。

### 【H3】薬剤師が人と関わらない仕事にも確認と伝達は残る

薬剤師の資格を活かしながら、患者と直接話す機会が少ない仕事はあります。ただし、人とまったく関わらない仕事はほとんどなく、確認と伝達の力はどの職場でも必要です。この点を知らずに転職すると、「思っていたのと違う」と感じる原因になります。

患者対応が少ない仕事の例と、そこで必要になるやりとりは次のとおりです。

  • 医薬品卸のDI業務(医薬品情報の問い合わせ対応)
    薬局や病院からの質問に電話やメールで答える
  • 製薬会社の品質管理
    製造部門や他部署への報告・連絡
  • 臨床開発モニター(CRA)
    治験を行う医療機関との調整や記録の確認
  • 行政の薬事担当
    事業者への指導や書類のやりとり



患者との雑談は減っても、正確に聞いて正確に伝える型は変わらず求められます。
4つの型は、職場を変えても持ち運べる技術だと考えてください。

「やめてよかった」と「やめなければよかった」の分かれ目

職場を変えて「やめてよかった」と感じられるかどうかは、辞める理由を具体的にできていたかに左右されます。
「人と話すのがつらい」という漠然とした理由のまま辞めると、新しい職場でも報告や調整の場面で同じ悩みにぶつかるためです。
「処方箋の枚数が多すぎて患者と話す時間がない」のように理由が具体的なら、それを解消できる職場を選べます。

判断を急がないために、辞める前に
「自分は何から離れたいのか?」
「次の職場で何を避けたいのか?」
を書き出してください。
コミュニケーションの悩みが理由なら、この記事の型を試したうえで、それでも残る悩みだけを辞める理由にすると判断がぶれません。
迷っている時期は一人で決めず、信頼できる先輩や家族に書き出した内容を見てもらうのも有効です。


【まとめ】薬剤師のコミュニケーション能力は一つずつ伸ばせる

薬剤師のコミュニケーション能力は、性格ではなく、練習で身につく確認と伝達の技術です。
患者が求めているのは知りたいことへの的確な答えで、疑義照会にストレスを感じた経験がある医師も約3割にとどまります。
話し上手を目指すより、「聴く・確かめる・伝える・つなぐ」の4つの型を一つずつ身につけるほうが、現場での迷いを減らす近道です。

明日の投薬では、苦手な型を1つ選び、具体的な質問を1つだけ足してみてください。
うまくいった場面をメモしておけば、それが次の練習の土台になります。
練習では解決しない環境の問題なら一人で抱えず、判断軸を持って次の選択肢を考えましょう。